はじめに
本ブログは2023年度の「SAPジャパン パートナー様向け SAP Buildハッカソン」インタビュー記事第1弾です。
「SAPジャパンパートナー様向け SAP Buildハッカソン」は、SAPパートナーを対象としたハッカソンイベントです。変化が激しい時代の中で求められる企業の業務効率化・開発の迅速化・回復力を実現するために、SAPが提供しているSAP Build (※)を用いたソリューションの開発を行い、発想の新規性や実現性などを競い合います。今年は、「SAPユーザーの業務を自動化・効率化するソリューション」という出題に対して、29社37チームと数多くの応募があり、その中で、1次選考を通過したファイナリスト6組が、2023年6月23日(金)の発表イベントにて最終選考を行いました。
※ SAP Buildは、SAP Business Technology Platform (以下、BTP)のサービスの一部として提供されています。ERPが直接カバーできない領域を補い、普段、業務を担当しているビジネスユーザーでも開発することができるローコード・ノーコード開発ツールです。
今回は、座談会の第1弾としてファイナリストからアビームコンサルティング株式会社(以下、アビーム)、FPTソフトウェアジャパン株式会社(以下、FPT)、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwC)(五十音順)より代表者3名にお越しいただき、お話を伺いました。
チーム紹介
アビームコンサルティング株式会社
(左の写真前列左から)網岡氏、小檜山氏、山田氏、(後列左から)有馬氏、津田氏、川嶋氏、彭氏、桐畑氏の8名で構成されたチーム。
座談会には8名チームのうち、(右の写真左から)有馬氏、小檜山氏、山田氏が参加。
HCMのコンサルティング部署のメンバーで構成されたチームであり、SAPコンサル歴2年/BTP歴0年の山田氏から、SAPコンサル歴10年の小檜山氏、SAPコンサル歴28年・BTPの前身にあたるSAP HANA Cloud Platformの経験がある有馬氏まで、多様なメンバーが参画。
FPTソフトウェアジャパン株式会社
(左の写真後列の左から)HUNG氏、VAN氏、応援に来た同僚、GIAP氏、CHAU氏、THU氏、(前列左から)QUYNH氏 CUONG氏、XUYEN 氏、応援に来た同僚の8名から構成されたチーム。
座談会には、8名チームのうち、(右の写真左から) QUYNH氏 、XUYEN氏、CHAU氏が参加。
3名とも、同じチームでBTP開発プロジェクトに従事されており、SAPコンサル歴は10年・3年・1年と多様。
PwCコンサルティング合同会社
(左の写真左上端から)岩田氏、仲山氏、陳(登)氏、孟氏、(中央部左から)大塚氏、陳(子佩)氏、荒賀氏 の7名で構成されたチーム。
座談会には、7名チームのうち、同じエンタープライズトランスフォーメーション部に所属している(右の写真左から)陳氏、荒賀氏、大塚氏が参加。
SAPコンサル歴は5から17年までと多様であるが、BTP歴は3名とも3年ほど。
インタビュー内容
今回のハッカソンへの参加のきっかけについてお聞かせください。
小檜山氏(アビーム):1つ目は、“チーム内でのコミュニケーションの促進”です。技術に興味のある若手同士や若手と中堅が関わる機会になればと思っていました。2つ目は、 “部署の技術レベルを高めていくこと” です。最近は、コーディングに取り組むことを避ける若手が多くなってきています。なので、ABAP開発やJavaを触るよりも、比較的簡単に取り組むことができるSAPのローコード・ノーコードツールを触って、「面白い!」と感じて欲しいと思っていました。
Chau氏 (FPT) :社内に最新の技術を勉強する文化があって、SAP Buildのローコード・ノーコードツールが話題になっていました。今回のハッカソンは、新人として新しい領域にチャレンジできる機会だと思い、メンバーとして参加しました。
荒賀氏 (PwC) :普段業務でBTPを触っている中で、SAP Buildなどのローコード・ノーコードツールは今後の開発の主流になっていくのではないかと感じました。そこで、SAPの方々と密に連携して、これから期待される技術を活かしてものを作っていくことができるこの機会は、非常に興味深いと思い参加しました。
参加してみて、楽しく多くの方と協力しながらできたのは非常にいい経験でした。
1次選考を通過した際の思いや、社内や周囲の反応についてお聞かせください。
荒賀氏 (PwC) :社内の反応は非常に良かったです。当日のイベントにおいても、大勢の方に参加していただき、またオンライン上でのサポートをしていただきました!
XUYEN氏 (FPT) :去年もハッカソンに参加しましたが、その時はファイナリストに残れず非常に残念な思いをしました。だからこそ今年は、しっかりと準備してファイナリストに残りたいと思っていたので、ファイナリスト発表前は凄く緊張していました(笑)。選ばれた際はとても嬉しかったですし、会社全体で応援をしてくれ、当日も大勢の方に参加していただきました。
山田氏(アビーム):正直ホッとしました(笑)。4月の中旬くらいから準備を始めて、6月に入り、プロジェクトもあるにも関わらず、多くの方々の協力を得ながら作成しました。やりきった感覚は持っていたので、「良かった!」と安堵の思いでした。周囲からは、「プロジェクトと並行で取り組みを行っていてすごいね!」との声をよくいただきました。
各社様に開発されたソリューションをそれぞれもう一度説明いただき、お互いに感想や質問などのフィードバックを行い、ソリューションについてディスカッションを行いました 。
アビームコンサルティング株式会社/チーム名:AB HCM Beyonders
アプリケーション名:Employee Quick Apply for Mobile
ライフイベント毎に発生する複雑な身上申請をマニュアル無しで簡単に提出できるアプリ
小檜山氏(アビーム):今回の作品の狙いはモバイルです。ファーストインプレッションでPC向けの画面では売れないなと思い、モバイルなら追加の価値が出せると思いました。
有馬氏(アビーム):個人的な野心として、スマホでしかできないことを全部アプリに入れてやろうと思っていました。GPS機能や写真は入れることができましたが、気圧・バイブレーションは使えなかったので今後は入れていきたいです。
大塚氏 (PwC) :発表を見ていて、「素直に欲しい!」と思いました(笑)。誰もが欲しい、イベントドリブンの作品だったので、最優秀賞を受賞されたのも納得でした。
XUYEN氏 (FPT) :プレゼンテーションを見て、私はまだ結婚していませんが、将来的に結婚をしたらこんなに複雑でやらないといけないことがあるんだと思いました(笑)。このような実際の課題やニーズに基づく、アプリが今後多く開発されたらいいなと思いました。
FPTソフトウェアジャパン株式会社/チーム名:F-ONET
アプリケーション名:F-OTS
輸送管理業務において、状況確認作業がお手軽になるアプリ
XUYEN氏 (FPT) :今回のアプリは、輸送業務はとにかく現場でデスクトップの仕事はないため、モバイルで色々できるものを作りたいとの思いから作成しました。狙い・こだわりポイントは、①モバイルできれいなUI、②ワンタッチで作業ができることです。
小檜山氏(アビーム):UIのきれいさにビックリしました。当日の発表でこれを見た瞬間に、「負けたな…」と思いました(笑)。
SAP Buildを触っていく中で、デザインをどのように作っているのかすごく気になりました。それぞれのページで整合性が取れていたので、常日頃からdeveloperの方がデザインを含めて担当しているのか、デザイナーの方と協働しているのか含めて教えて頂きたいです。
XUYEN氏 (FPT) :チーム内にデザインが得意な人がいたので、そのメンバーを中心にFigmaというサービスを使って、まずは画面デザインをしました。その後チーム内で合意を取ってから、SAP BuildでUIを作成しました。UIはSAP Build未経験者でもすぐに使え、短い時間で作ることができました。
陳氏 (PwC) :私もアプリケーションのデザインが綺麗で、私も凄く感心しました。デザインを事前に行った際は、どのような観点を持たれていましたか。
XUYEN氏 (FPT) :ホーム画面の作成においては、私自身が一日仕事をする前に、スマホを開いてただやることが記載されているだけでなく、グラフを見て直観的にタスクや輸送の状況を見ることができたら便利で、魅力だなとの思いがありました。また、グラフからドリルダウンで詳細を見ることができれば、もっと楽かなと思いました。
PwCコンサルティング合同会社/チーム名:The New Equation Creator
アプリケーション名:Smart BRIM
世の中が“もの”から“こと”にシフトしていく中、顧客へのラストワンマイルは気が利くフロントアプリ
荒賀氏 (PwC) :世の中が“もの”から“こと”にシフトしていく中で、サブスクリプションビジネスの重要度が増しています。それをタブレットで色々できたら面白いのではないかという思いから、このアプリは生まれました。複雑なロジックはSAP S/4HANAのサブスクリプションソリューションであるBRIM上で行い、 SAP BuildではUX開発に注力できたなどのアピールポイントに加えて、将来的には、AI技術をさらに活用していきたいと思っています。
小檜山氏(アビーム):IT側はAIの活用をやりたいという方針を持っていることが多いが、実際にAIを活用するユースケースとしては地に足がついたものを提示しなければいけないかなと考えています。そこで、今回のアプリケーションに関して今後のAI活用に対する考えやアイデアを教えていただければと思います。
陳氏 (PwC) :契約内容に関しては、オプションなど、様々なバリエーションがあるので、毎回ゼロベースで契約詳細を作り上げることは非常に手間がかかります。そこで、顧客の属性や過去の契約内容などに基づいて顧客へのリコメンデーション情報を作成し、その顧客に応じて提案できるような機能を開発していきたいです。
実際にSAP Buildを使ってみて、どのような印象を持ちましたか。
荒賀氏 (PwC) :SAP Build Appsの方においては、 BTPの中にはBusiness Application StudioやMobile Serviceのように似たサービスもありますが、こちらはプロ開発者向けのためコーディングする必要性が多くこちらと比較しても、開発しやすいと実感しています。
XUYEN氏 (FPT) :普段BTP開発をしているので、画面を作るには裏側で0からコードを書く必要があります。ただ、今回ほとんどコードを書かずにドラッグ&ドロップだけで凄く綺麗なUIを構築することができて、素晴らしいと思いました。
小檜山氏(アビーム):思っていたより簡単に作れるのだなぁという印象を持ちました。メンバーほとんどが5年目以下で、SAP SuccessFactorsを中心にビジネスをやっているかつ、BTP経験もなかったので、1週間で作成できるのかという不安もありました。それでも1週間でサクッと作れたので、すごく便利だなと思いました。
SAPプロジェクトにおいて、ローコード・ノーコードの将来性についてどうお考えですか?
小檜山氏(アビーム):日本のお客様に、大規模な開発で使っていただくには、さらに1~2年必要かもしれないです。ただ、SAP S/4 HANA・SAP SuccessFactorsを運用されているお客様に、SAP Buildを使えば、容易かつ迅速にモバイルアプリが作れることなどを訴求していくことは直近でもできると思います。
社内で今回のハッカソンの内容を共有した際に、東南アジアのメンバーからの反応が一番よく、活発な意見交換をしました。選択するマーケット次第では、現在SAPを使っている顧客に対して追加の提案ができるのではないかと思います。
梅沢氏 (SAP):日本と東南アジアの違いは?
小檜山氏(アビーム):一番は基盤に対する信頼性だと思います。使っていると不安定だと思う瞬間があります。これを本番化した時のリスクをどのように捉えるかの違いだと思います。もう一つはプロコードで明示的に指定ができるバージョンアップした際のキャッシュクリアキャッシュクリアなど、改修が適切に全エンドユーザーに反映されるかなど、開発基盤として特に日本のクライアントが気になる技術仕様を深掘りして確認する必要があると感じています。
ローコード・ノーコードツールの活用によって生産性が向上するのは、お客様のIT部門になるのか、ユーザー部門になるのか、どちらだと思いますか?
大塚氏 (PwC) :両方だと思います。ユーザー部門がツールを触って、一から開発できるかというと難しい面も多いと思います。SAP S/4HANAからデータを取得する際は、データモデルやAPIの理解が必要になってきます。 そのため、IT部門側でデータ取得の手順を作成および公開して、ユーザー部門側でそれを活用するというような協力体制が大事だと思います。その上では、現場が無秩序に開発し、野良アプリのようなものが乱立しないように、どう統制をとるのかが重要になると思います。
小檜山氏(アビーム):現段階では一般のユーザーが開発していくイメージを持つのは難しいと思います。ただ、“事業もITも理解できるDX人材”を育てていかないといけない現代社会においては、現場の課題を変えていかないといけないというミッションの下、このローコード・ノーコードツールを使用できるのは良いきっかけになるのではないかと思います。
陳氏 (PwC) :最初の導入の段階では、どうしても技術力が高いメンバーで対応していただくことを想定しているのですが、仮に稼働した後のUI変更や、新たなサービスの追加・画面上の修正、エンドユーザーが飽きないようなアプリケーションのカスタマイズなどについては、市民開発ができる余地があると思います。
あとがき
SAPコンサル歴・BTP歴が多様なメンバーに参加していただき、それぞれの視点を基に活発な意見交換・ディスカッションが行われました。3社の作品はそれぞれ独創性があり、また、ジャンルに関しても、人事・配送・サブスクリプションと多岐にわたりました。このことが、「実際のニーズや世の中のトレンド等に応え、様々なシナリオで利用できるビジネスアイデアを形にできる」という、SAP Buildの汎用性の高さを表しているかと思います。
一方で、3社の作品には、“モバイルとの親和性”という共通点が見られました。これは、「エンドユーザーが直感的に理解、操作できるようになる」というニーズが高まっていることと同時に、そこに対して、「未経験者であっても、綺麗なインターフェースを短期間で作ることができる」SAP Buildの今後の可能性の高さを示しているかと思います。
実際に、「開発期間が短期間ではあったが、SAP Buildを用いて、迅速かつ高精度のアプリを開発できました」との声が挙がり、私自身ローコード・ノーコードツールの将来性が凄く楽しみになりました。一方で、SAP Buildが今後の開発の主流になるかどうかは、開発の規模・要件の多さなど様々な要因が関わるため、唯一の解を出すことが難しいとの声も挙がりました。これらの声を踏まえ、プロジェクトにおいてSAP Buildをどのように位置づけて、どのような目的のために使われるべきなのかなどを考えることが、お客様の変革を支援していく上で重要だと強く感じました。
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